PICKUP:ホールチェア
「ホールチェア」と呼ばれる椅子をご存知ですか?
会堂や渡り廊下など屋内のパブリックスペースで使用されたことからこのように名づけられたと言われています。
18世紀のイギリスで時の家具職人の手によって生み出されたホールチェアは、彼らのパトロンであった貴族の邸宅で来客や召使いの待合い用の椅子として使用されました。
背もたれやシートに発注者の紋章が描かれ、美しい装飾と職人の腕前が遺憾無く発揮された曲線優美なシルエットが特徴だったそれらのホールチェアは評判を呼び、以降の家具デザインにも大きな影響を残します。
その最たる特徴はシンボリックで人目を惹く、装飾豊かな背もたれ(物によっては座面や脚)のデコレーションにあります。
また不特定多数の人間が使用する家具ですので手入れのしやすさが重視されています。
一方で坐り心地はそこまで重要視されていないため、パブリックスペースでの使用を念頭に作られた数人掛けのベンチと同じように、基本的にクッションなどは取り付けられていません。
衆人の目に触れる前提でデザインされた極めて装飾的な椅子の一種でありながら、奢侈性(ラグジュアリー)を追求していないという点において少々特殊な椅子です。
今回もキヤ・アンティークス 在庫の中から幾つか例を挙げてその魅力をご紹介します。
最初はホールチェアの典型的意匠を象ったお品を二つ。
中心にあるオーバル型の不思議なシンボルはパーチメント(羊皮紙)です。
次のホールチェアの真ん中に彫られているものは少し似ていますがシールド(紋章の土台となる盾のシンボル)です。
まさにこのパーチメントやシールドの部分に持ち主や場所・組織などを示すための紋章やシンボルが彫刻されたり描かれたりしました。
またホールチェアは時には組織・団体にとっての看板や記念碑的な役割も持っていました。
オックスフォードのローイングチーム(漕艇/ボートチーム)のマークが描かれたホールチェア。
察するにこちらのホールチェアはチーム発足10周年の記念品として発注制作された品のようです。
このように特定のシンボルを冠するのはホールチェアのデザインにおける重要な要素ですが、それだけではなくインテリアとして空間を彩る役割も当然持っています。
19世紀ヴィクトリア朝期に作られたゴシックスタイルのホールチェア。 典型的なゴシック意匠が背もたれにそのまま彫刻されています。
こちらも19世紀のホールチェアで、ゴシック意匠のグリーンマンが背もたれに彫刻されています。
キリスト教的自然主義から生まれた植物人頭意匠であるグリーンマンは家具のみならず建築物にも多く採用される流行のモチーフでした。
最後の二点は少し毛色が違います。
彫刻豊かなウォルナット材のイタリア製アンティークホールチェア「スガベッロ」の背もたれ。
スガベッロはホールチェアの原型になった家具だと言われています。
こちらのスガベッロにはフィレンツェの紋章である六つの丸薬が乗った盾と羊皮紙が彫刻されていますが、これはフィレンツェ共和国で権勢を誇った著名な貴族メディチ家の紋章(家紋)でもあります。
ルネサンス期のイタリアで生まれたスガベッロもホールチェアの例に漏れずインテリアとしての役割を持つ椅子であり、主に貴族や富裕層の邸宅の渡り廊下(ホールウェイ)に装飾品として置かれていました。
20世紀前期〜中期に活躍した家具職人ジャック・グリンブル氏作のホールチェア。
19世紀後半に起きたアーツ・アンド・クラフツ運動の流れを汲むホールチェア…優美と言うよりはむしろ素朴で暖かみのあるプリミティブなカントリー・ファニチャーの趣があります。
上述のスガベッロとは異なりますがこちらもホールチェアの原型となった家具(元々イギリスに存在したスピニングチェアやカントリーチェア)のエッセンスを色濃く感じさせる逸品です。
彫刻の意匠はイギリス王室を表すチューダー・ローズ。
材は質の良いエルム材が使われています。
また、基本的に壁を背にして使用されるため装飾は人目に触れる前面のみ。
後ろ側がバッサリ断ち切られているお品も多く、これもホールチェアの特徴です。
紹介した商品はキヤ・アンティークス横浜店・藤沢ウェアハウスで在庫・展示販売中(一部販売済み商品あり)。
ホームページ在庫リストにも掲載しています。 詳細・在庫状況併せてご確認下さい。
※掲載した商品の一部は修復前の状態です。
対象商品は購入後、弊社工房にてオリジナルの風合いを生かし、且つ日常的に使用できますようリペア/清掃を行ってからのお引き渡しとなります。
なお通常の修復工賃(構造修理、塗装調整等)は商品代金に含まれております。
ただし修復後、表示の寸法から若干変化する場合がございます。
またお届けまでに2週間~1ヶ月程度の修復期間が必要となります。
詳細は上記リンクから各商品の個別ページをご参照ください。
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