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フランス製アンティーク エッチングフレーム | キヤアンティークス
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フランス製アンティーク エッチングフレーム

フランスで18世紀末〜19世紀中期に刷られた腐食銅版画(エッチング)です。
オーバル型のピクチャーフレームに飾られた肖像画の体裁で、若い男女(恋人)がそれぞれの部屋の家具調度と共に描写されています。
額縁越しに向かい合う様子が情感豊かに描かれ、お互いにアイコンタクトを取っているかのようにも見えますね。

オリジナルの銅版は1789年に製作され、その後フランス・パリの印刷・出版業の一大拠点だったサン・ジャクェス通り(Rue St-Jacques)にあった工房にて生産された旨が原版の最下端に押印してあります。

 

こちらを描いたのは18世紀後期フランス王国末期に活躍したデザイナー・銅版画家のアウグスティン・デ・サン=オービン。
銅版画家は芸術家であると同時に依頼を受けて図録・目録・挿絵・肖像など絵や図象の載った印刷物を作成することを生業としていた職人で、デ・サン=オービンは当時のフランス国内における腐食銅版画の第一人者といって良い人物です。
また彼はタペストリー職人に端を発する芸術の名門一族の出身でもあり、時のオルレアン公(フランスの王族)から所有する宝飾品の目録製作を依頼されるなど、生前は非常に著名な銅版画家として知られ、キャリアの中頃(四十代)でフランス王立図書館付きの銅版画家に任命されるほどでした。

因みにこの銅版画、正式には「腐食銅版画」と云い、その名の通り原型となる銅板に酸を用いて絵柄を刻印する版画技法のことであり、非常に緻密で繊細な線画を量産出来る事が特徴です。
14世紀に発明され、古くはドイツの天才アルブレヒト・デューラー、次にオランダの大画家レンブラント・ファン・レイン、近代では19世紀フランスのギュスターブ・ドレ達がこの技法による絵画製作の名手として挙げられます。

ギュスターブ・ドレ作 ダンテ・アリギエーリ「神曲」の地獄篇より”ミノス王”

印刷技術としての腐食銅版は現代では美術工芸の分野でしか用いられる事は有りませんが、18世紀以降急激に進歩した印刷技術及び写真の発明・普及によって淘汰されるまで、図録・図鑑・専門書などの印刷物や精細な描写が要される目録(カタログ)向きの量産可能な記録媒体として盛んに用いられていました。

だまし絵やトリック・アートのような趣あるピクチャーフレームですが、このような「(絵の中に描かれた)額縁に収められた肖像画」は銅版画で肖像画を描くときの構図としては極めてオーソドックス且つ普遍的なデザインです。
ただ、王侯貴族や時の権力者・人士・学者のポートレイト(肖像画)を数多く有りますが、こちらの銅版画はそれらの仕事の対極であるかのように、名も無き庶民をモデルにしているのが特徴といえます。
実際この二品では敢えて俗っぽく砕けた雰囲気と表情を採用し、二人の男女はいずれも伝統的な肖像画の体裁(額縁にあてがわれた横顔)を採りつつも、肖像というよりは寧ろ物語の登場人物の様に生き生きと寓話的に描かれています。

 

作品詳細:”AU MOINS SOYEZ DISCRET”(せめて慎み深く)
中央下段に画かれたレリーフ:目隠しをしたまま断崖に向かって歩くアモール
”il ne voit pas le precipice”(崖が見えていない)

 

作品詳細:”COMPTEZ SUR MES SERMENS”(我が誓いを待して)
中央下段に画かれたレリーフ:薔薇のブーケを持つアモール
”il emporte la rose!”(薔薇を手に取った!)

 

この二作品が製作された1789年は奇しくもフランスの第三身分(=平民)によってバスティーユ監獄が襲撃された年でもありました。
この事件に端を発してその後ヨーロッパ全土へと波及していったフランス革命の影響により、アウグスティン・デ・サン=オービンの主要な顧客であった(貴族を含む)既存の富裕層の多くは力を失いました。
作者自身は革命初期の混乱を乗り越えたものの、それから約十年ほど実質的に新規作品の製作が中断されていた為、こちらはフランス革命以前に作られた作品としては最後期の一品となります。
彼は19世紀(1800年~)に入ってフランス革命の混乱が一段落すると制作を再開し、1807年に亡くなるまで精力的に創作活動を続けました。

こういった背景もあって作品の作られた経緯やその意味合いを一概に言えないものの、絵解きの要素が数多く散りばめられており、なにやら意味深な隠喩が込められているようです。
ちなみに、男性の肖像は作者自身の自画像を下地にしているとも云われています。人によっては若い恋人たちをテーマにしたシニカルな作品に見え、かと思えばアウグスティン・デ・サン=オービンから細君へのメッセージが込められた作品のようにも見えてきますね。
荘厳で静的且つ伝統に則った肖像画を数多く手掛けてきた作者が自分自身を揶揄(やゆ)しているかの如く、17世紀フランス銅版画の大家手ずからのセルフ・パロディの様相が感じ取れる作品です。

 

キヤ・アンティークス横浜店で展示販売しています。

 

Shere
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